2011/09/30

他人の著作を自炊して公開問題

この問題は、作家の日垣隆氏が自身が著作権を持たない、また権利者から配布を許諾されていない書籍をPDF化(電子化・自炊)し、誰でもダウンロードできる状態でWebサーバー上に配置していたことが明らかになった、という事件です。

この件については大石英司氏のメールマガジンで取り上げられているので、ここに紹介します。

大石英司の避難空港 7/30,7/31,8/2号
http://melma.com/backnumber_173916_5249832/
http://melma.com/backnumber_173916_5250610/
http://melma.com/backnumber_173916_5252170/

私もこの問題について権利者である著者と、それからナツメ出版編集部の担当者I氏にコンタクトしました。問題のファイルをダウンロードできるURLを教えたところ、著者からはすぐに「まったく知りませんでした。ナツメ社さんとも相談してみます。」とのお返事をいただきました。許諾していない、ということでしょう。

ナツメ社の方は少々時間がかかったり難儀しましたが、会社組織として対応しているのでしょうから止むを得ないでしょう。結局許諾していないという返答をいただきました。

先ほどこの記事を公開する前に再度問題のURLにアクセスしてみましたが、未だにそのファイルは日垣氏公式サイトのWebサーバーからダウンロードすることができます。この問題が指摘されたのは2011年7月27日ですから、すでに問題の発覚から2ヶ月以上経過しているのに何の対処もされていないことになります。

ナツメ社と日垣氏との間でどのようなやり取りがあったのか、あるいはなかったのか私は知りません。この問題ではナツメ社は被害者です。著作権法により著作権侵害は親告罪とされているので、ナツメ社が何もしない限り日垣氏は何のお咎めも受けません。

この問題で日垣氏がどのような発言をしているかを知りたければ、日垣 ナツメで検索してみるとよいでしょう。facebook上でいくつかの発言を私は見ましたが、それらは後に削除されました。

日垣氏が知っているのか知らないのかどちらにせよ、公式サイトの代表者は日垣氏です。この問題について対応しなければいけません。自身が著作権を持つファイルの流出には遅まきながら対処した(この件は後の記事でとりあげます)のに、なぜこのファイルはダウンロードできるままで放置されているのでしょう?

この問題には、次のような疑問が残されています。

  • このファイルは誰によりWebサーバーに配置されたのか?
    この件についてはほぼ判明しています。このブログで今後触れていくでしょう。
  • このファイルの配布対象者は誰なのか?
    これは判明していません。bitlyのアクセス統計によると当該URLには200回以上のアクセスがあったことはわかっていますが、彼らからのリークは今のところありません。アクセスはしたものの、ファイルサイズが大きいので一度中断したり、後日リトライしたことも考えられるので、ダウンロードした人数=アクセス人数とは限りません。
  • ナツメ社から被害届は出ているのか?あるいは日垣氏に対して何らかのアクションはあったのか?
  • なぜ問題のPDFファイルはWebサーバー上から削除されていないのか?

(『有料PDF URLダダ漏れ問題』に続く)

2011/09/23

限定記事:セキュリティ問題に対するクレド会員の反応

http://secret.ameba.jp/higakimondai/amemberentry-11026557315.html

日垣隆公式サイト ガッキィファイターの販売システムとセキュリティ

日垣隆氏の公式サイト http://www.gfighter.com/(注:2012年1月にgfighter.netに変更された)では、「電子書籍」をオンライン販売している。トップページ左側のカラムからそれらしきリンクをクリックすると、おなじみのショッピングカートシステムで「電子書籍」を購入することができる。適当な商品の能書きを表示してみると、次の注意事項が表示される。

クレジットカードで決済完了されると電子書籍(PDFファイル)をダウンロードできるURLをメールにてお知らせいたします。

これはそのままの意味である。決済が完了するとメールでURL文字列が送られてくる。そのURLにブラウザでアクセスすると、PDFファイルがダウンロードできる。URLはhttp://www.gfighter.com/images/(サブディレクトリ)/(書名).pdfであった。URLにアクセスしても認証プロセスはなく、ダウンロードしたPDFにもDRMなどのセキュリティはかけれられていなかった。

詳しい人ならばここで驚くだろう。そして次のような疑問を抱くはずだ。そのURLが推測されたら?URLが流出したら?PDFにセキュリティがかかっていないということはコピーされてしまうではないか?それらの行為に対してどのような法的問題を問うことができるか?それでユーザーの信頼を得られるか?

日垣氏は有料メールマガジンによる読者の囲い込みと、さらに年会費10万円のクレド会という組織を作っている。このクレド会員等に送るファイルも認証なしでWebサーバー上に置き、ファイルにもセキュリティはかけられていなかった。つまりURLさえ知っていれば、あるいはそれを見つければ、誰でも情報にアクセスすることができる状態にあった。

このような管理体制のシステム上で、次の問題が起きた。

  1. 有償である電子書籍(PDFファイル)のURLが流出していた(通称ダダ漏れ問題)
  2. 日垣氏が著作権を有しない、また権利者から配布を許諾されていない書籍をPDF化(電子化・自炊)し、誰でもダウンロードできる状態でWebサーバー上に配置していたことが明らかになった(通称他人の著作を自炊して公開問題)
  3. クレド会員限定勉強会の様子を収録した音声ファイルと、それを文字におこしたPDFファイルを後日会員に配布する予定でWebサーバーにアップロードしておいたが、クレド会員に告知する前にそれらのURLが流出した。そのファイルには(参加者に限らず)個人を特定できる情報と、写真が含まれていた(通称クレドPDF流出問題)

このテーマ(公式サイトセキュリティ問題)ではこれらの問題を扱っていきたい。なお、前述した疑問については、次のように考えている。

  • そのURLが推測されたら? URLが流出したら?
    URLは流出していた。また十分に推測可能であったと考えている。そしておそらく流出したURLからは故意にあるいは偶然にファイルはダウンロードされていただろう。
  • PDFにセキュリティがかかっていないということはコピーされてしまうではないか?
    その通りであるが、コピーされて配布されている様子は今のところ見つけられていない。
  • それらの行為に対してどのような法的問題を問うことができるか?
    ユーザーに対して不正アクセス行為を問うことができないため、少なくとも不正アクセス防止法を適用することはできない。電子計算機損壊等業務妨害罪を適用する可能性も考えられるが、法律が想定しているセキュリティレベルに達していないと推定されるため、その可能性は低い。
  • それでユーザーの信頼を得られるか?
    少なくとも私は個人として2度とこのサイトで商品を購入したくないと考えている。またこの問題に対して批判的な意見は見られるが、肯定的あるいは擁護する意見を見たことはない。

日垣氏はこの問題について2011年9月3日にfacebookの個人ウォールで次のようにコメントしている。

今朝は、私の公式サイトがハッカー被害にあい、有料コンテンツを
無料にして新たなリンクを貼る(これは窃盗罪です)などをされました。
メッセージでの
嫌がらせから、犯罪の領域に入ってきています。

ただし日垣氏の公式サイトではこの問題について今のところ一切言及されていない。つまり実際の顧客への説明はしていないということだ。また上記のコメントもここまで書いてきた事実と食い違っていることに気づくだろう。「有料コンテンツを無料にして」とはどういう意味か?「新たなリンク」とはどういう意味か?認証について触れないのは何故か?問題が起きた時点で問題のサイトはどのようなセキュリティを実装していたのか?

多少なりとも知識のあるユーザーであれば容易に推測できるであろうから、あえて詳述はしない。日垣氏の発言に注目していただきたい。

(『他人の著作を自炊して公開問題』に続く)

2011/09/19

『情報の技術』のPDFは何部売れたのか 『電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。』(講談社)編

この記事を理解するためには、前の記事に書かれている次のことを理解しておく必要があります。

  • gfighter.comではひとつのPDFを1000部/月しか売れない
  • 『情報の技術』の販売開始時期は2009年10月~2010年1月

 

『情報の技術』のPDFは2011年4月時点で×万部売れたとされている

日垣隆著「電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。」の p.29~30に次の記述があります。

私が95年から96年にかけて月刊誌に連載した、「情報の技術-インターネットを超えて」(朝日新聞社)という本があります。書籍の発売は97年です。その後、文春文庫で「情報系 これがニュースだ」となり、それなりの数がうれました。しばらくして、出版社の都合もあり、絶版扱いになってしまいます。仕方ないですよね。
(中略)
そんな本が、絶版のまま読者に届かない状況を座視しているのは、この業界にいる者としてまさしく不届き。私は自らのサイトでPDF化して売ることにしました。PDF化にかかった費用は1500円程度です。専門業者に依頼しました。サイトで売るPDFの定価は1部1500円に設定したので、1冊売れれば元を取れる計算になります。しばらくして、売り上げが順調なことを聞いた出版社の方も、我がことのように喜んでくれました。
ところが、「×万部を超えました」と話した瞬間、気まずい沈黙が(笑)。

講談社のサイトより、この本の発行年月日は2011/4/28です。したがってこの文章はそれ以前に書かれたことになり、そして書かれているエピソードは文章に書かれる前に起きたことになります。
ちなみに前の記事で触れている日刊サイゾーの記事の公開日は2010.07.21となっており、この記事では問題のPDFが売れた数は「10万部以上」となっていますが、その9ヶ月後に発売されたこの本ではそれを「×万部を超えました」と表現しています。そのことは指摘しておくに留めます。

上記の記述から『情報の技術』のPDFは2011年4月以前に販売部数が×万部を超えたとされていることがわかります。
この「×万部」の×には何が入りうるのかを検証していきます。

「×万部」の×には1しか入り得ない

2009/10~2011/4までは3+12+4=19ヶ月あります。
gfighter.comではひとつのPDFを1000部/月しか売れないという注文数制限がありますから、19×1000=19000となり最大でも19000部しか問題のPDFを販売する事はできません。 システム上(あるいは契約上)販売可能な最大数であり、加えて期間もかなり甘くとっていてもこの数字になります。
すなわち、×には最大でも1しか入りません。0もありえますが、「0万部を超えました」とは言わないでしょうから、ここには1以外の数字は入りません。

結論と疑問点

問題の「×万部を超えました」は1万部しか該当せず、2万部以上は該当しないことがわかりました。問題の書籍『電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。』(講談社)には次の疑問が残ります。

  • システム上1万部台が限界なのに、それを「×万部を超えました」と表現したのは何故か
  • 日刊サイゾーの記事では「10万部以上」としていたのにそれを「×万部を超えました」と変更したのは何故か
  • 問題のPDFは本当はいったい何部売れたのか

参考資料

小飼弾「私の友人に日垣隆(ひがきたかし)さんというライターの方がいるんですけど、ただのPDFファイルを1万部売ったんですよ。」― 慶應義塾大学SFC研究所 プラットフォームデザイン・ラボ主催シンポジウム「電子書籍ビジネスの未来」(2010年4月13日)USTREAM中継アーカイブより
http://www.ustream.tv/recorded/6153012/highlight/219294

「電子書籍の衝撃」の衝撃 - 小飼弾(2010年4月8日)
http://agora-web.jp/archives/978645.html
※「日垣隆氏は「単なるPDFファイル」を一万部以上売ったそうです」という箇所が日垣氏のツイートにリンクされているが、リンク先は存在しない。